3-2照明器具 【行燈(あんどん)は日本の照明の原点である】

照明器具
有明行燈

3-2 照明器具

【行燈(あんどん)は日本の照明の原点である】

日本の住宅建築は庇が長いという特徴を持っています。これは古き中世から変わらない特徴と言えます。縁側などと共に雨や露をしのぐ方策であった訳ですが、軒が長いと住宅内に入る光が少なくなると言う欠点もあった訳です。そこで太陽の光を効率よく室内に取り込む技術を持つ人が現れました。それが庭師です。高い知識と技術を持つ庭師は庭園に白い玉砂利や池を配置して、太陽の光がそれらに反射して家の中に入ってくる光の筋道を計算して造園したと言われています。今でも京都の金閣寺や銀閣寺の軒を見上げてみると明るく浮き上がっているのが確認できます。玉砂利がコンクリートに変えられている所もありますが、その効果は変わっていません。

さらに縁側に沿って障子があり、障子の和紙を透過した光は50%減光されるのですが、大壁などの漆喰(しっくい)に当たってリバウンドしながら部屋の奥まで進んで来ます。障子を開けて太陽光を直接入れるよりも明るいのです。天然の間接照明だと言えましょう。このような繊細な光のコントロールは室町時代や安土桃山時代の東山文化からの伝統だと言えるようです。

日本家屋の昼と夜

そして夜になるとその明るさは一変して行燈だけの暗い明りになります。行燈の江戸時代までの明るさは現代の言葉で表現すると「真っ暗」です。この暗さを現在体験できるのは長野県の小布施市にある「あかり博物館」です。学芸員の案内でカーテン等で覆った和室で文字が全く読めない経験をすることでしょう。同じ蝋燭(ろうそく)でも100目、50目蠟燭は高貴な方(お金持ち)しか使えませんので、10目位の蠟燭では何も見えない状況になる訳です。

しかしこの博物館での体験でも不思議なことに15分から30分程その場所にいると次第に辺りが見えるようになって来ます。そうです!古来からこの暗順応という人間の眼球の力でそんなに苦労なく生活をしていた訳です。

さらに行燈は畳の上に直に置くのですが、光が畳に当たり床の明るさを部分的ではありますが確保していたのも行燈の性能に加味しているのです。

 行燈の明るさは暗順応の時間が必要

しかしまだ文字は読めません。そこで行燈の宿命として、蠟燭の芯を切るための扉が必ず存在することに気付くと思います。和蝋燭は時々芯を切らないとだんだん暗くなって消えてしまうのです。行燈の比較的下の方に観音開きや猫間障子のように上にスライドする扉が付き、芯切ばさみを下げておく釘のようなフックが付いています。つまりこの扉を開けると蝋燭の光が直接畳に届くのです。この畳の上に文(ふみ)や書(しょ)を持ってくると十分に明るい学習スタンド的効果が得られるのです。ですから今でも習字は畳の上にフェルトを敷いて体をかがめて筆を縦にもって書きますよね。又時代劇の殿様の食事風景は1人1人小さなテーブルを床において低い位置で食べるのも、この行燈の全体照明と部分照明が両方出来る機能を生かした光の工夫であったと考えられています。

そんな照明器具の原点を持った「行燈照明」は、世界に自慢できる照明器具だと思いませんか?

行燈の使い方は将にこの古き工夫に集約されていると思います。

(次回もお楽しみに)

(文/河原武儀氏)



和風照明器具のミヤコアンドン 都行燈株式会社
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